癌についての質問に答える

新 癌についての質問に答える

新 癌についての質問に答える

臨床看護2013年11月号 ほんのひととき 掲載
“ 定年後は時間ができるだろうから,<がん>についていろいろな質問を受けてお答えした内容をまとめようと,メモ用紙にかきとめていた。教室を主宰して10年過ぎたとき,これが100枚近くになった。<がん>についての私の考え方を理解してくれる医局員も育ち,臨床の力もつけてきたので,一般外科で治療する癌についての質問とその回答をまとめて出版しようと思い立った”(旧版 癌についての505の質問に答える 序より)

最新の癌診断・治療知識を得るのに最適な本の新版が出ました。
監修は、熊本大学医学部外科教授でいらした小川先生です。旧版『癌についての505の質問に答える』を小川先生から送っていただき、この欄で紹介したのは2003年でした。もう10年になります。
読者として 1)癌診療専門医(インフォームドコンセントや患者さんのもっている<がん>についての知識を理解するために) 2)一般実地医家(紹介や情報提供のために) 3)レジデントおよび研修医 4)癌専門看護師 が対象と序に書かれていました。
新版では、一般外科で診る疾患に加えて、肺癌、泌尿器科癌、婦人科癌の説明が加わり、カラー写真、図表もふえて読みやすく、さらにすっきりした装丁になっています。
クリニックを開業して以来、がん治療選択の相談にのる患者さんから感じていることですが、この10年で患者さん自身あるいは家族がインターネットなどを通じて、がん知識を得るためのアクセスの容易さ、得る情報量は年々倍増してきました。しかし逆に情報過多のために治療の選択決定に際して途方にくれる方も増えてきたような気がします。
私のクリニックに通院している泌尿器科の患者さんでもこの1年間に、胃癌、胆道癌、大腸癌、肺癌、卵巣癌などが健診や当院でのフォローアップ検査でみつかり、大学病院や近隣病院への紹介をしました。そして紹介後もそれぞれの主治医から聞いた説明をもう一度確認したいため、あるいは不明な点を専門外である私の外来で質問されることが数多くあります。
そのときに座右において心強かったのが旧版『癌についての505の質問に答える』でした。もちろん年々、情報は古くなってきます。しかし再読するたびに小川先生の患者さんを診る基本姿勢を感じとって、少しでも真似ることで不安にさいなまれている患者さんに安心感をもってもらうことができました。その姿勢とは小川先生が『外科臨床講義』(へるす出版刊)のなかでまとめられている次の言葉です。
「質問を決してはぐらかさない」「責任をもって援助する決意があることを明言する」「急がず,時間をかけて話をする」そして「どんな状況でも希望の火を消さぬように,またポジティブにとらえるように話を進める」です。
新版の序文に書かれていますが、この基本姿勢が編集委員の各領域の先生方に徹底している上に、原稿ができてからさらに三校の段階で、小川先生自身が2回すべての内容に目を通して全体の統一をはかったそうです。
何回も監修者のきびしいチェックによるフィルターろ過を経て書かれた内容と文章はこの本の大きな魅力であり、安易で一方的なインターネット情報との大きな違いです。各疾患の専門外の医師・看護師・薬剤師など医療関係者のみならず、患者さんにも信頼される知識の大きな支えとなると思います。
さらに本書に加えて癌緩和ケアについては、同じく小川先生の編集による『一般病棟における緩和ケアマニュアル』(へるす出版刊2005年)をお勧めします。
“学生がなぜある一人の教師に惹き付けられるのかということは,学生にとっては説明がつかないし,不可解なことであろう。それにもかかわらず,彼らは無意識のうちに教師の考え方,感じ方,行動を真似る。少なくとも彼らが自分自身の独自のものをもつまでは"(『外科学臨床講義V 研修医のための臨床講義』より外科医ビルロートの言葉)