やさしく読める 脳・神経の基礎知識

臨床看護2013年5月号 ほんのひととき 掲載

“基礎の基礎だけど間違いやすいところをはっきりさせ、少しややこしいところをすっきりさせる。そうした基礎知識を理解することが、患者さんの病状のみならず心の理解の窓口になることを願い、一部踏み込んで紹介しました”(本書 はじめにより)

ふだんどこにでもありそうでいて、なかなか出会えない本に出会いました。
臨床に即して正確でかつ最新の医学知識を盛り込み、しかもわかりやすく、初心者でも部外者でも大事なことは理解でき、さらに繰り返しや質問・ドリルが盛り込まれてすぐに外来や病棟でも役立つ工夫とレイアウト、図表に満ちている「脳・神経の教科書」が、本書『やさしく読める 脳・神経の基礎知識』です。
著者は長崎川棚医療センター・西九州脳神経センターの脳神経外科部長である浦崎先生で、この本の成り立ちを次のように述べています。
“この本の内容は脳神経外科医として、実際に経験した患者さんから得られたものばかりです。そのほかに、院内の勉強会で寄せられた質問、外来が終わった後や当直のときに尋ねられたことなども盛り込みました”(本書より)
経歴を見ると浦崎先生と私はほぼ同年代です。私も30歳代半ばに初めて泌尿器科医長として出張した病院の泌尿器科病棟で、同じような勉強会を毎週行っていた頃を思い出しました。今まで泌尿器科常勤医長がいなかった病棟で、スタッフにどのように泌尿器科の基礎知識を知ってもらい、術前・術後の管理について理解を深めていくかを手術室や病棟婦長(当時)さんらと相談して行ったのが、手術日翌朝の週1回のミニ勉強会でした。
病棟の一角にあった狭いナース控え室のテーブルをかこんで、日勤勤務の始まる前の15分間を使って前日のオペの内容、あるいは次週のオペ患者さんの病気、治療法について基礎知識を持ってもらうように繰り返し説明しました。出入り自由、外来、オペ室スタッフ、さらには研修医もときおり顔を出すようになって、次第に出席者からは質問も出るようになってきました。
この出張病院でのミニ勉強会の効果を踏まえて、大学に講師として戻ってからも、毎週はじめに病棟のカンファレンスルームでレジデントと病棟ナースらと昼休みに激辛のタイカレー弁当を買ってこさせて(タイカレーの専門店が大学病院前にありました)、週明けの意識レベルをアップさせながら勉強会もした時期もありました。
さて本書の大きな魅力は、浦崎先生が“コーヒーでも飲みながら、あるいはお菓子でも摘みながら、リラックスして読んでいただければと思います”と書かれている以上の深い内容がさりげなく、会話形式で表現されている点だと思います。その一例です。
“U先生;意識って、どんなものだと思う?
主任ナース;自分と周りを認知することかしら。
U先生;さすが主任さん。準備なしのいきなりのインタビューであるのにこの答えです。なかなかすぐにこのように表現できるものではありません。意識の研究者らは「自己と環境についてわかっている状態を意識清明という」と定義しています。ただし、「意識とはなにか」については、われわれのような救急医療の従事者が用いる場合と脳科学者や哲学者が表現する場合とはかなりのギャップがあることを理解しておく必要があります。(中略)では、意識をとのように捉えたらよいと思う?
主任ナース;意識そのものはと覚醒度と内容に分けてみていくとよいと理解しています。
U先生;私と主任さんは意識について共通の捉え方をしていることがわかりました”(本書 41章 意識より)
私は泌尿器科臨床医となってからは、本書に出てくる研修医レベルの知識程度しかなく、苦手で避けてきた分野が脳神経科学領域の診断・治療の知識でした。本書を一気読みして、少しはレベルアップ(本書でいうレベル3以上)になったような手応えと、苦手意識がとれました。浦崎先生、ご丁寧なご指導をありがとうございました!