発達障害に気づかない大人たち

発達障害に気づかない大人たち (祥伝社新書 190)

発達障害に気づかない大人たち (祥伝社新書 190)

臨床看護2011年1月号 ほんのひととき 掲載
“いい大人なのに、机の上が片づけられない、忘れ物やミスが多い、約束や時間を守れない、すぐにキレる、空気が読めない・・
あなたの周りにも、そんな「ちょっと困った人」がいないでしょうか?
もしそうだとしたら、その原因は「大人の発達障害」かもしれません。
発達障害は大人になってから顕在化することが多いのです。
何を隠そう、その研究や治療に携わる私自身が、実は発達障害者なのです”(本書 巻頭より)

発達障害」というと、私は不勉強でいままで小児のイメージしかありませんでした。泌尿器科でも小児を診る機会があるのですが、つい聞き分けもなく外来を走り回る子どもを見ると、
「親のしつけはどうなっているんだ?」
「ひょっとしてこの子はいま話題の注意欠陥・多動性障害(ADHD: Action Deficit Hyperactivity Disorder)かな?」
と思うくらいで、専門的に取り扱った本を読む機会がありませんでした。
今回、新聞の書評で、本書『発達障害に気づかない大人たち』をみたときに書名にまず目を惹かれました。
そして、精神科医で児童精神医学・スクールカウンセリングなど小児の自閉症や、発達障害が専門の星野先生が著者であること、さらに星野先生自らが発達障害者だったことに興味をそそられてすぐに買い求めました。
新書版でありながら、診断基準、薬物療法、そして「女性の発達障害」など最新の欧米文献の紹介も織り込まれた、丁寧に書かれた内容に驚きました。
発達障害とは、注意力に欠け、落ち着きがなく、ときに衝動的な行動をとる「注意欠陥・多動性障害(ADHD)、対人スキルや社会性などに問題のある「自閉症」、「アスペルガー症候群」などを含む「広汎性発達障害」などの総称です。
これらは、うまれつき、あるいは乳幼児期に何らかの理由で脳の発達が損なわれ、本来であれば、成長とともに身につくはずの言葉や社会性、感情のコントロールが未発達、未成熟、アンバランスになるために起こると考えられます。一言で言えば、脳の発達が凹凸なのです”(本書より)
以前に大学や一般病院で、若いレジデントや、病棟・外来スタッフの指導に私も苦労したときのことを思い浮かべながら読んでいると、まさに「目からうろこ」でした。
そして症状病態の変化が大きくてわかりにくい「発達障害」という視点から振り返ると、性格や個性の問題と誤解していた点もあったのでは、もう少し接し方・指導に工夫があったのではないか、と反省が先にたってきました。
“注意欠陥・多動性障害(ADHD)は行動面だけに問題があるわけではありません。社会性や学習・認知機能、運動機能など、さまざまな発達のプロフィール(側面)が未熟またはアンバランスなのであり、むしろそれらの症状のほうが社会適応上ハンディになりやすのです。
以上のような理由から私はADHDを「発達アンバランス症候群」と呼ぶべきであると提唱しています”(本書より)
「障害」という言葉から浮かぶ、マイナス面を和らげて「アンバランス」という言葉に置き換えるだけでも、星野先生が繰り返し本書で強調されているように、ずいぶんとこの病気の理解が深まると思います。
それは教育の持つ大事な力である、「褒めること」の大切さを再認識できるきっかけになるようです。

発達障害者が持っているは、磨かれていない原石です。
多くのすばらしい長所も持っているのです。
自分の興味や関心のあることには誰にも真似できないほど夢中になれる人並み外れた集中力(過集中)や好奇心(新奇追求傾向)があります。
気持ちが素直で、表と裏がなく、褒められると「疲れを知らない子どものように」頑張れるのも優れた特性の一つです”(本書より)