かくして冥王星は降格された

かくして冥王星は降格された―太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて

かくして冥王星は降格された―太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて

臨床看護2009年11月号 ほんのひととき 掲載
“「冥王星がないのは、ここニューヨークだけだ」 (2001年のニューヨーク・タイムズの第1面記事の見出しより)”

今回は、「惑星だった」冥王星の本です。「水金地火木土天海冥」、今でも小学校では理科の授業で教えているのでしょうか?太陽系惑星がまだ9つであったときの覚え方です。
私は小学校以来、プラネタリウムが好きで毎月のように渋谷の東急文化会館にあった五島プラネタリウムに通っていました。肉眼では目にすることができない惑星、「天海冥」の解説を聞きいったことはいまでも心に残っています。
英語では冥王星はプルート(Pluto)です。ディズニーファンの方ならすぐに思い浮かべるミッキーのペットであるプルートと同じスペリングです。
アメリカでは次のような語呂合わせがあるそうです。
My Very Excellent Mother Just Stirred Us Nine Pies.(わたしのひじょうによくできた母が、まさに今われわれにパイを9枚焼いてくれた)
Mercury(水星)、Venus(金星), Earth(地球), Mars(火星), Jupiter(木星), Saturn(土星), Uranus(天王星), Neptune(海王星), Pluto冥王星
本書はこの冥王星が、2006年8月に国際天文学連合の決議によって、惑星から「降格」された事件簿、顛末記を描いたノンフィクションです。
著者のタイソンさんは、ニューヨークにあるアメリカ自然史博物館のプラネタリウムの館長です。アメリカ人のアマチュア天文家であったクライド・トンボーによって発見された謎の惑星X(冥王星)がプルートと命名されたのは1930年、そして1931年にはディズニー映画にプルートは初登場しました。しかしウォルト・ディズニーがプルートを考え出したときにはまだ冥王星のことは知らなかったそうです。
プルートと惑星の冥王星には明確なむすびつきはないにもかかわらず、なぜか両者にはむすびつきがあるものとずっと思われてきました。そしてこのことは、今回、惑星から「準惑星」に降格された冥王星の話題が、日本では想像できないほどアメリカでは大きな社会文化的論争を巻き起こした素因にもなったとタイソンさんは冒頭に指摘しています。
“この1冊の本には、冥王星が惑星として発見されてからその地位を失うまでの記録が、メディアに登場した解説、公開討論、漫画、そして怒れる小学生とその教師や、自分の意見をしっかり持った大人や同業の科学者からわたしに送られてきた手紙を集めたものとしてまとめられている。冥王星がいかにアメリカ市民、専門の科学者たち、そしてマスコミの心をとりこにしているかを時代を追って詳細に示すものである”(本書 はじめにより)
直筆の小学生の手紙、そして新聞や雑誌に描かれた論争を揶揄したマンガなどがたくさん載せられている本書は、思わずにやっとしたくなるほど楽しい本です。
しかし、この論争の根底には、新しい技術によって発見された科学的真実が、従来の分類や人々の考え方や教育を変えていくのか、科学的思考のモデルとして重要性があり、そこをしっかりとタイソンさんは踏まえて書き進めています。
たぶん、同じようなことが医学でも常に起きているのだと思います。新しい疾患概念が登場するたびに戸惑いを覚えますが、従来の考え方に固執しないことも大事なのでしょう。
空がきれいになるこれからの季節、星空を見上げてみるときにきっとお役に立つ本です。ちなみにタイソンさんが勤める、アメリカ自然史博物館はマンハッタンにあり、映画「ナイトミュージアム」の舞台にもなっています。読み終えて、私はリニューアルされたプラネタリウムをぜひ見に行きたくました。

冥王星アメリカ市民にとって大きな存在になっている一因が、それがアメリカ人によって発見された惑星だったことにあるようだというのも、また本書からうかがえる。フロンティア精神で国土を開拓してきた彼らにとって、宇宙もそんなフロンディアであり、太陽系の一番外側にある冥王星が、アメリカという国の自画像にしっくりとあてはまる”(本書 訳者あとがきより)