地球温暖化の予測は「正しい」か?

地球温暖化の予測は「正しい」か?―不確かな未来に科学が挑む(DOJIN選書20)

地球温暖化の予測は「正しい」か?―不確かな未来に科学が挑む(DOJIN選書20)

臨床看護2009年7月号 ほんのひととき 掲載
“温暖化の予測は完璧ではありません。かといって、インチキでもありません。ひとが、よく知らない対象のことを、まったく疑わずに信じることも、まったく信用しないことも、比較的簡単だと思います。
比較的難しいのは、対象の本質を理解したうえで、どの部分をどのように信じてよいか判断することです”(本書まえがきより)

新聞・テレビ・FM・AMラジオ、どのマスコミでも「エコ」「地球環境」「温暖化」「CO2削減目標」といった言葉は、毎日のように出てきます。
「西暦2050年度までにCO2排泄量を現在の半減にする行動目標の達成」が欧州では求められていると聞いても、いまいちピンときません。その頃には、私は生きていたとしても95歳、たぶんもう地球環境とは無縁のところに行って(逝って?)いるなどと自分の都合で考えていました。
私事ですが、そんな自分勝手な考えを変えるような出来事が昨年夏におきました。長男夫婦に孫が生まれ、私はグランパになりました。携帯電話の待ち受けに毎月の成長写メールを入れて友人に見せるなど、顰蹙を買いながらも爺バカをやっています。
そして「孫娘ほどかわいいものはない」、と実感していたときに、この子が成長して親になるころはどうなっているのだろうという、素朴な疑問からこの「地球温暖化」が急に身近な問題に感じられるようになりました。
では、ほんとうに温暖化するのだろうか?という質問に国立環境研究所地球環境研究センター・温暖化リスク評価研究室長である江守さんがわかりやすく、そして「科学的」に解説した本書に出会いました。
“コンピューター・シミュレーションという言葉はいろいろなところで聞くようになったかもしれません。しかし、それが具体的にどういう計算をしているかについて知る機会は少ないのではないでしょうか。
データとして出現する「コンピューターの中の地球」こそが気候モデルの実体と呼べるかもしれません。あるいは、そのプログラムに込められたわれわれの自然理解、すなわち「気候とはこういうふうにできているものだ」という認識の結晶こそが気候モデルと考えるべきかもしれません”(本書より)
カラー口絵には、地表温度、降水量など8枚の気候モデルと観測データが載っています。この口絵が示す意味をひとつひとつ、高校生でもわかるような講義をするように江守さんが解説を進めています。
単なる無味乾燥な地球物理の本ではありません。淡々とした文章の合い間には、研究に込める江守さんの熱意がじわじわ「温暖化」のように伝わってくるのが本書の魅力です。
“温暖化がどれだけ深刻な悪影響をもたらすかは、自分が生きているあいだだけについていえば、なかなか評価が難しいと思います。しかし、温暖化を「人類の文明にとっての問題」としてみた場合には、これは明らかに深刻だと思います。今生きている現代はまさにその移行期にあり、僕たちは人類が文明の選択をする瞬間を目の当たりにしているのではないでしょうか。
こう考えると僕はとても元気が出ます。世界を変革するべき充分な理由があって、自分は自分の立場からその変革にコミットしているという感覚。自分が生きているうえでの役割を与えられた感じがしてきます”(本書あとがきより)
科学者として本文中では控えていた江守さんの思いが、あとがきになってやっと出てきました。それは私が、孫を抱きながら感じた思いと同じではないかと読後に強く思いました。

地球温暖化の予測は「正しい」か?という問に対する僕の直接の答えは、「前提条件が正しければ、不確かさの幅の中に現実が入るだろうという意味において、正しい」となるでしょう。そしてわれわれは不確かさの幅をより適切に測り、そしてその幅を狭める努力を行っています”(本書より)