外科学臨床講義(I・Ⅱ);考える臨床医であるために知っておきたい外科学の進歩

外科学臨床講義―考える臨床医であるために知っておきたい外科学の最近の進歩 (2)

外科学臨床講義―考える臨床医であるために知っておきたい外科学の最近の進歩 (2)

臨床看護2001年11月号 ほんのひととき 掲載
“私は臨床講義とは教科書に書いてあることをそのまま教えるものではないと考えている。教科書にまだ記載されていない新しい外科学の進歩を教えることに力を注いだ。その意味では「『外科学』臨床講義』というよりも,『小川外科学』臨床講義」と呼ぶべきなのかもしれない"(本書まえがきより)

 著者の小川道雄先生は,熊本大学第2外科の教授で,最近10年間に小川先生が医学生にされた全臨床講義の記録が,質疑応答とスライドを含めてまとめられたのが本書全2巻です。おそらく外科領域の先生方や病棟スタッフには,すでにひろく知られた臨床講義録だと思いますが,私がこの本に出会えたのはつい最近のことでした。
 今年の6月にNHKテレビ「にんげんドキュメント」という番組で,外科フレッシュマンの新人教育にユニークな取り組みをしているという切り口で,小川道雄先生が紹介されました。毎年5月に外科フレッシュマンが外科医局に入局してきた直後からの新人教育1カ月を追いかけてのドキュメントでした。
 “外科のフレマンが病棟での看護実習(清拭やベッド周りの掃除など)を初めの1週間やり,さらにお互いの採血点滴実習。そして教授自らが連日朝の6時半からフレマンに早朝講義。「慢心しない,身と心をふやけさせないため」に教授回診ではエレベーターを使わずに階段を上って病棟へ。研修医が月114時間の勤務で死亡した新聞記事と,40度の発熱の患者を置き去りにして5時過ぎたからと帰宅した研修医の新聞記事をとりあげて,フレマンの考えを聞きただすカンファレンス風景など……"と,国立大学病院でもこういう臨床教育を重視する教授がいるんだなあという印象に残る番組でした。
 翌日この番組のことを友人に話したら,すぐに紹介してくれたのがこの2冊の分厚い本書でした。私も日常診療や手術で外科の先生方と一緒に仕事をすることが多いので,なんとなく外科学のことは知っているような気がしていました。しかし,「外科学の最近の進歩を研修医にも教育する場が臨床講義」との信念に貫かれた講義録を読むと,まさにアップデートな情報があたかも小川先生の肉声を聞くように心に響いて伝わってきました。
 本書のもう一つの魅力は,外科学にとどまらず,臨床腫瘍学医の心得とも言うべき癌患者さんへの告知やインフォームド・コンセントについても取り上げられている点にあると思います。最近の癌治療学会などにおいても,「情報開示を前提とした癌医療を迎えて」と題して悪い知らせを患者さんに切り出すときのポイント,いわゆるコミュニケーション・スキル・トレーニングについての講演が毎年行われるようになりました。それを小川先生が先取りするような形で学生講義,というか研修医のための講義で,自らの経験として「筆者が癌告知の際に心がけたこと」として以下のようなポイントがまとめられています。
 “①告知はかならずプライバシーの保てる環境で行う,②急がず,時間をかけて話をする,③患者が病状についてどの程度知っているか,どのような希望をもっているかを尋ねる,④告知は患者反応をみながら段階的に行う,⑤どんな状況でも希望の灯火を消さぬように,また常にポジティブにとられるように話を進める,⑥責任をもって援助する決意があることを明言する,⑦質問を決してはぐらかさない"
 さりげない言葉のなかに,先生の強い信念を感じとることができるようです。

 “「君たちは士官である。今は若くてまだ見習い士官だけれど,士官だからこそ他人から注意されない。だから自分で戒めなければならない」と研修医に言っている。「このことはおかしい」と患者さんや家族が注意してくれないものだから,自分でそれを考えなければいけないし,自分でいつも反省しなければいけない"(本書より)