ABCDJ

ABCDJ―とびきりの友情について語ろう

ABCDJ―とびきりの友情について語ろう

臨床看護2009年2月号 ほんのひととき 掲載
“もしも人生に幸運というものがあるとしたら、それはジャックのような親友を得ることだ。同じ町に住む必要もないし、毎日のように顔を合わせている必要もない。友情、とりわけそれがいちばん古いものであれば、距離などは何の関係もないのだ”(本書より)

去年の夏に、この欄で『カシオペアの丘で』(重松清著)を紹介しました。小説の舞台はかつて炭鉱で栄えた北海道の小都市。そこで生まれ育った4人の同級生(シュン、トシ、ユウの3少年と少女のミッチョ)が、39歳になって再会し、人生の大きな転機を迎える小説でした。シュンが進行癌になって亡くなる哀しい物語でもありました。
この『カシオペアの丘で』と同じ頃に、出版された本が今回ご紹介する『ABCDJ とびきりの友情について語ろう』です。
本書は、少年時代からの親友(Aアレン、Bボブ、Cチャック、Dダン、Jジャック)が57歳になったときのノンフィクションの物語です。著者はこのなかのボブ・グリーンで、1947年にオハイオ州の片田舎の町、べクスレイに生まれ、名コラムニストとして、シカゴ・トリビューン、ライフ誌、ニューヨークタイムズなので活躍しているジャーナリストです。著書には『17歳 1964春/夏』『チーズバーガー』などのベストセラーがあり、お読みになった方も多いと思います。
“57歳になったある日、ジャックが末期がんを宣告された。残された時間をできる限り共に過ごそうと、彼らは思い出のつまった故郷へと集まる・・・生涯続く友情がもたらす人生の輝きを描いた、名コラムニストによる静かな感動の物語”という書評の紹介で、去年夏に買い求めたものの、『カシオペアの丘で』を読んだ直後だったのでそのまま部屋に積読になっていました。
それが1年たった晩秋のある夜に、部屋でぼうっとしていたときにABCDJが目に留まりました。読み始めたとたんにボブ・グリーンさんの感情を抑えた、淡々とした文章に引き込まれてしまいました。
“57歳なんて厭だと思っているだろうが、そう思うのはふたりが70歳になってからにしよう”(本書、ジャックの言葉より)
さまざまな読み方が出来ると思います。ひとつには、1950年代のアメリカへの郷愁、それはちょうど映画『スタンド・バイ・ミー』や、『Back to the Future』に描かれた古きよきアメリカの姿を、グリーンさんが5人の故郷の町べクスレイを通じて丹念にえがいている視点のあたたかさです。
“何もかもが複雑になってゆく。そんなことなど何も知らずにいられる子ども時代が、至福のときなのかもしれないな”(本書より)
あるいは、末期がんになっても癌と戦う姿勢を崩さないジャックの姿を通じて、アメリカがん治療の最先端である、スローンケタリング研究所、インディアナ大学でのsecond opinionがどういうものか、在宅緩和医療がどのようにおこなわれているかを客観的に書き綴るグリーンさんのクールなジャーナリストとしての視点も本書の魅力です。
さらにグリーンさん自身が、数年前に奥さんを亡くした心のグリーフ・ケアもところどころに織り込まれていました。ジャックへの友情に、グリーンさんの奥さんへの追憶が重なっているようです。
一気に読み終えた後、今年54歳になる私としては、グリーンさんの気持ちがストレートに伝わってきました。原書でも読みたくなってしまう本にひさしぶりに出会えた気分です。

“生きてきた軌跡がささやかなもので、それを讃える者がごく身近な人たちにかぎられていたとしてたら、その人の最期はただ静かに閉じられてゆくだけだ。
自分たちにとってすべてを意味し、それがなかったら人生なんて無に等しいと思える存在が親友だとしたら、それはまさに神から与えられた幸運の輝きのなのだと言っていい。自分の人生を充たしてくれていた歓びや目に見えない贈り物は、すべて友人が与えてくれたものだったと気づく”(本書より)